Tくんへ2008年01月10日 22:40


 東急による渋谷駅の野宿者排除に対する抗議行動に参加したときのこと。みんなが抗議の声をワーワーあげてるのに、Tくんは排除されていくひとたちをみて涙が流れてしかたなかったそうや。声ひとつあげられなかったとき、それをみていた公安から「なんだ、おまえ、震えてるじゃないか」とからかわれたんやと。新年会のとき、そんなことをボソッと、Tくんは中島くんに話してくれたという。
 すると、となりでその話を聞いていたMくんが「もう二〇年もまえのことだけど、泊原発反対行動で、ぼくらと機動隊がジリジリ対峙していた時、一人の機動隊員がデモ隊の前で『お願いですから、もうこれ以上こっちに来ないでください。これ以上中に入ってこられると、ぼくたちはあなたたちを排除しなければならないんです』と泣きながら訴えたんだよ。対峙した現地の仲間も泣いてた……」と話をしてくれたんやてね。
 わたしも泣き虫やから、この話をきいて涙が出てきたよ。そしていろんなことを思い出した。
 Tくんはわたしと誕生日が同じそうやから、来月で二五才になるのかな。わたしは二二才で東京に出ていったんやけど、それまで田舎で「わたしはベトナム戦争に反対します」いうビラを一人でまいたりしてた。
 テレビのニュースで機動隊と学生がぶつかって、学生が石投げたりゲバ棒もったり火炎瓶なげたりするのをみると、戦争反対をいってるのに、なんで石投げたりゲバ棒もったり火炎瓶なげたりするんや、それじゃあ、敵と同じにことになってしまうやないかと違和感でいっぱいやった。
 学生たちははじめからゲバ棒もったり石なげたりしてたわけやない。初めはヘルメットもないし、素手やった。それが機動隊のひどい暴力から身を守るためにしだいに学生たちもヘルメットを被ったりゲバ棒をもったり、石をなげるようになったんやけど、そうした流れの結果だけをみてわたしは反感をもったんやった。 それが東京に出て山谷の労働者に出合ったんや。初めて山谷を知った時は、やっぱりTくんと同じで涙が止まらんかった。そして、ただ黙っていっしょにデモに加わったり、黙ってビラを渡したりしただけ。ことばはなかなかでてけえへんかった。
 誰一人友だちのいない大都会で、ほんま神経衰弱になった。朝、公園で一人ベンチにすわってたら、目の前の高架をギュウギュウ積めの通勤電車が走ってく。「あー、奴隷が運ばれてるー」って恐ろしかった。新宿の街でひとにぶつかりながら歩いてると、「あー、あー」って叫び出したくなった。
そして突然わかったんや。
 テレビで新宿騒乱事件のことを知ったときは、やっぱりなんであんなことをするんやと思ってたのに、新宿の街を歩いてたら、わたしも車道に走り出て自動車を止めたくなったんや。道路の敷石をはがして線路において電車もとめたくなった。 この息の詰まるような大都会を壊してしまえ、メチャメチャにしてまえとわたしもおなじように叫んでたんや。その叫びは新宿騒乱といわれる事件で人びとがあげた叫びと同じやんか——って。
 六九年頃の話や。

 七四年にわたしは大阪に移ってきたんやけど、八〇年ころやったかな。刑務所が懲役囚に作らせた家具とか靴とかいろんな品物を「矯正展」いうて、一般に売り出すんやけど、わたしら、その会場に「明るい監獄のウソ」いうビラをつくって、まきにいったことがある。釜共闘や三里塚支援のひとたちやいろんなひとにも呼びかけてやったから、それを聞きつけた警察がなんと機動隊カマボコ四台つれてきて、わたしらを会場に入らせないんや。それでまあ、いろいろ攻防戦があったんやけど、わたしは機動隊員の一人に話しかけたんやった。
 それを傍で見ていた釜のおじさんが、わたしのとこにきて「なんであんなケイサツの奴らとにこにこ話をするんや。なんでにこにこできるんや。わしらは日頃あいつらに虫けらのように扱われ、どんなひどい目に合うてるか。さっきから見てたらあいつらと親しそうに話なんかしやがって。それを見てるだけでわしは腹がたつ。ムカムカする」ってすごい剣幕でしかられた。「そうか。そうやな」って思った。このおじさんの顔はいまでも忘れへん。

 他にもいろいろ思い出すことあるけど、そうしたいろんなことに出合ったりして、だんだん自分以外のひとに対する想像力が多少はもてるようになってきたんやないかと思ってる。そやけど、初めの自分が持っていた一次的感情は絶対的なもんやないけど、それは自分自身のもんや。そやからそれは捨てることはでけへんし、自分にこだわりつづけたらいいと思う。
 でも「運動」は一次的感情をぶつければいいというわけにはいかん。それしか出来んときも、それが大事なときもあるけど、それだけでは続かんもんな。やっぱり「やり方」を考えなあかんねんな。表現・発散・解放や。その三つがそろったあの手この手を考えなあかん。そやけど、これが言うはたやすくするが難しい……。ま、自分自身で「あ、これ、やりたい」って思ったときにだけ、やったらそれでええんちゃうか。(風)