無視された「呼び出し状」——四月一六日のTシャツ裁判・報告記2008年05月11日 14:52

 「マイクを持っていったのは、なんのためですか」
 「横断幕を持っていったのは、なんのためですか」
 「ギターを持っていったのは、なんのためですか」
 「呼び出し状を持っていない人がきていたのは、なんのためですか」
 「出張裁判に原告らが出席しないことで、どんな不利益があるのですか」……

 二〇〇三年十一月二一日、この日は東京拘置所において、大道寺将司くん益永利明くんに対する裁判官の出張尋問が行われた。ほんまは福岡裁判所で法廷が開かれるたびに獄中原告の二人も、出席できるのが本筋や。それを東京拘置所長権限で妨害して出席させへんもんやから、裁判所の方から東拘に出張して直接本人尋問をすることになったわけや。
 これについては、裁判所としても面白くない。建前としては三権分立いうけど、どうも行政の方が強いんやな。いくら裁判所命令を出しても拘置所側はききよらん。で、裁判所としては、獄外原告も出張尋問の仮法廷の場に出席できるようにと、一人一人に「呼び出し状」を出した。わたしらは、その「呼びだし状」を手に手にもって、天草から、福岡から、熊本から、鳥取から、岡山から、犬山から、そして全国各地からそれぞれ大枚の電車チンつこて、東京拘置所に二十数名が馳せ参じたんや。
 ところが「呼びだし状」は黄門さんの印ろうのようにはいかんかった。「これが目に入らぬか」といっても、歯牙にもかけず、東拘は頑として扉を閉ざし、バリケードまでつくってわたしらを敷地内に一歩もいれない。その指揮をとっていたのが、渡辺豊久という当時の警護の責任者。その彼を今回証人として出廷ねがったわけ。
 渡辺さんは、こんなところに呼び出されるとは夢にも思っていなかった、と証言したけど、なにしろ「上からの命令でやったこと」「所長が入れないと決定したことに、わたしらが意見をはさむ余地はない」「これまでの、二回におよぶTシャツ原告らの東拘前の振る舞いから判断しても、業務に重大な支障がでるおそれがあった(どんな支障がでるんや)」「現に、マイクで大声でわめき、横断幕をバリケードに結びつけ(これウソ)、バリケードを突破して中に入ろうとした(そんなことしたらパクられるやないか)」「通行人の交通の邪魔をして、ギターを鳴らし大声でうたって(それは帰りしなの公園でや)、呼びだし状をもっていないものも多数いた」ので「警察にも連絡をとって出動してもらった」「代表の方と話がしたいといったが話し合いにならなかった(ウソつけ)……」と、まるでわたしらは初めから騒ぐために東拘にきたような言いがかりで、「執行妨害された」と繰返すばかり。
 この証人にたいして、木村京子さんは実に穏やかに諭すようにやさしく一つ一つ追及して、裁判所からの「呼びだし状」を東拘が頭から全く無視した事実と、その重大性・違法性を浮かび上がらせたんやった。
 それにしても役人根性まるだしの渡辺さんに、わたしもムラムラっとひとことお尋ねしたき儀がござる、と立ち上がった。
 「渡辺さんは公務員ですよね」
 「はい、そうです」
 「公務員とわたしたちの関係は、どういうものでしょうか」
 「それは公僕です」(おお、よういうた。しかし、こんときの顔つきいうたらなかった…)
 「さきほど、渡辺さんは、わたしたちの行為を公務執行妨害といわれましたが、その前に、公僕であるなら、わたしたちが侵された権利をとりもどすために、裁判を起す権利があることは認められますよね」
 「はい」
 「わたしたちは呼び出し状をもらったので、獄中原告らと仮法廷に同席すべく、遠くから電車チンかけて東拘に出向き、その旨を訴え、それを表現する自由があることを認められますか」
 「はい、お気持はわかりますけど……」
 というので、さらに続けようとしたら、裁判官が口をはさんできて「表現の自由の問題は、こちらで判断しますから……」といわれてしまったので、わたしの質問はそれでおしまいになったんやけど、こんどは、原告代表して筒井さんが証言台にあがった。その筒井さんにたいする国側の代理人・検事の質問が冒頭の質問や。まだ若い女検事さん。感情がもろに外にでて余裕がない。にしてもこの質問のし方は、国とわたしたちとの関係をはっきり表してると思ったな。公僕どころか、はじめから敵視してるんやから。わたしらはいつ騒ぎをおこすかもわからん不逞の輩なんや。

 監獄法が改正されても獄中処遇はかえって悪くなってる。法務省の建前では「拘置所に問題があれば質す用意はある」といいながら、本気でそれをするつもりはないようやし、拘置所は建前も本心も囚人に対する徹底的管理強化や。それは囚人に対してだけではない、わたしら「国民」全部にたいするそれが国の姿勢なんや。
 次回は七月九日。最終弁論。今年中に判決か——。
水田ふう

*「支援連ニュース」303号掲載

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