鎌田俊彦著『われに告発する用意あり——宮城刑務所 2005年5月〜2006年9月』2007年05月15日 13:17

鎌田俊彦著「われに告発する用意あり」書影

 牢獄生活は広い世間的生活の縮図だ。しかもその要所要所を強調した縮図——これは、大杉栄「続獄中記」にある有名なくだり。「強調した縮図」という表現にうならされた人は多いだろう。
 たとえば勾留理由開示公判で、裁判官や係官が私たちの手の数センチの上げ下げさえを見張り、すぐさま取り押さえて外へ運んでいくようなとき、微かに想像できる「獄中」の生活。しかし、「強調した縮図」の現実に、関心が集まるようなことにはなかなかならない。

 先月、鎌田俊彦さんの獄中書簡を編んだ『われに告発する用意あり』(「そうぼう」編集部)がひっそりと刊行された。鎌田さんってだれ? という人のために、扉裏にある鎌田俊彦さんの略歴をそのまま引用する。
 1943年中国旧満州生まれ。東洋大学中退。
 1971年9月より、交番、米軍通信施設等を連続爆破(同年12月24日には四谷署追分派出所にクリスマスツリー爆弾を仕掛け、爆破)した黒ヘルグループのリーダーとされる。80年3月に逮捕。91年2月に無期懲役の刑が確定。同年5月より宮城刑務所へ移監され、現在に至る。

 本書は、その鎌田さんによる「強調した縮図」告発の書だ。2005年5月から始まった宮城刑務所の「異常事態」と、それを隠蔽したいがために所長、刑務官たちが懲役たちに何をしたか?
 当時、鎌田さんは「サンデー毎日」という場所を通じて事件を告発した。刑務所で何かに抵抗する、ということの意味を考えれば、鎌田さんの行為は、文字通り身を賭して、という言葉が相当だろう。それから2年、所長らは処分され、そして……。
 その顛末を、消し去れぬ記録として残しておくために、今回、この本が仲間によって刊行された。

 イラク戦争における米兵による捕虜虐待の風景。そして名古屋刑務所における複数の暴行致死事件とその裁判結果のニュース。本書に登場する、滑稽で強圧的な所長とサディスティックな刑務官たち(けっして多数派ではないと鎌田さんは言い添えているが)。
 懲役を、つまり人を人とも思わぬかれらは、相手が人間として対応することをことさらに憎む。密室のなかで、まぎれもない人間が人間に向ける極限的な差別のあり方。
 そのただ中から、不自由な交信としてもれきこえてくる鎌田さんの声は、ぽくにはひどくきびしく、シニカルにひびく。しかし、たった一人の闘いをしたものとしての自負をもそこに感じる。

 取り扱いは模索舎のみ。
 *http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/2007/04/26/post_32.html
 東京近辺以外の人は手に取りづらいかもしれませんが、皆さん、ぜひ読んでください。(MN)

鎌田俊彦著
『われに告発する用意あり——宮城刑務所 2005年5月〜2006年9月』
「そうぼう」編集部発行
B5版 248ページ 1,500円

第一部 名古屋刑務所事件 2002年10月〜2006年12月
第二部 宮城刑務所 2005年5月〜2006年9月 鎌田俊彦獄中書簡
  *宮城刑務所事件一覧
  *付録・平川輝忠所長前歴
第三部 弁護士たち
 舟木友比古 菊田幸一 山本志都 
  *訴状 *国会質問
第四部 友人から
 高田宰夫 亀井洋志 木村京子 永井迅 吉村光男 梶原得三郎 たけもとのぶひろ
[資料]
  全国刑務所事件簿 1997年〜2006年 秋山映美
  刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律施行規則〈抜粋〉