殺人は粛々と2008年02月03日 13:08

 二月一日、三人の死刑執行があった。前回の執行から五十五日目。
 テロ特訴法では、日本だけなにもしないわけにはいかんからと自衛隊を海外に送り、死刑については、「世論」にもとずいて粛々と殺るだけ——と、権力者どもの舌は一体何枚でできてるんやろな。
 お昼のラジオで執行をきいて、やっぱりじっとしてられなくて、大阪に行った。夜七時大阪拘置所正門前。坂やんが一人、マイクで抗議の声をあげてる。アムネスティの林さんがやってきた。親戚のお葬式の途中をぬけだして、荷物をかかえた小端さんが走ってきた。
 坂やんからマイクを渡されたけど、わたしは何も云うことが浮かばん。何を云っても空しいやんか。今日は、いつもは遠くにいる警護の刑務官が、門のすぐ前に七、八人出張ってきてる。これも仕事や。人殺しも仕事や。仕事やったらなんでもできる。してしまう。「仕事ですから」と云えば、「そうですか」と。みんなそれ以上聞かない。話はそこでおしまいや。
 「……わたし、なんにも云うことないねんけど、執行があったって聞いて、家にじっとしてられなくて、やっぱりここにきたんやけど……
 あんたら、いまどんな気持ち?
 あんたらなにくわん顔してるけど、やっぱり、嫌な気持してるやろ。鳩山さん、こんな調子でこれから二ヶ月に一度のスピードで処刑をやる気や。そしたら、あんたらも、処刑にだんだん慣れていくんやろか……寒いし早よ帰ってくれー云う顔してるからもう帰るけど、日本中が死刑賛成云うても、処刑があったら、また来るからな……」
 ため息まじりにやっと云った。
 わたしらがプラカードや提灯や、幕をかたづけはじめたら、それまで門の内側にいたかれら七、八人がゾロゾロっと出てきた。坂やんが彼らに写真機を向けると、後ろむいて、ゾロゾロッとすぐにひっこむ。

 なんだかむしゃくしゃして、このまま帰る気にはなれへん。刑務官の官舎、拘置所のまわりは、明々と灯がともった高層マンションが、ぐるっと取り巻くように立ち並んでる。晩御飯を終えて、一休みしてる平和な?家々にマイクを向けることにした。
 今度は坂やんからマイクを奪った。自慢やないが、競艇場の予想新聞売り子でならしたわたしの声は、よう響くんや。
 「あなたが暮らしてるすぐ傍の大阪拘置所で、今朝死刑執行がありました」
 「殺されたのは松原正彦さん六十三歳です」
 「松原さんは再審請求をしていましたが、去年却下されていました」
 「松原さんは今朝突然、執行を知らされました。松原さんはどんなふうにして処刑場までつれていかれたのでしょうか。どんなふうに目隠しされ、どんなふうにして首に縄をかけられたのでしょうか」
 「グァアーンという音がして奈落につきおとされ、首の骨が砕けて、絶命まで、どれくらいの時間がかかったのでしょうか」
 「死刑に賛成というあなた。この光景をしっかり想像してください」
 「刑務官は、仕事とはいえ、処刑のボタンを押す仕事は嫌な仕事にちがいありません」
 「死刑に賛成というあなた! あなたが処刑のボタンを押しますか?」
 「死刑に賛成というあなた! 血まみれの糞尿まみれの死体をあなたがかたづけますか?」
 しいーんとした夜のしじまに、わたしのこえは吸い込まれていった。

 そして、つい飲みすぎてとうとう帰れなくなった。急に電話してNさんに泊めてもろて、朝四時までしゃべって、やっと少しきもちがもどってきた。ああ、ああー(風)

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