きのうは異常2008年09月12日 23:33

 きのうは異常やった。
 いや、異常でないのが異常やった。
 大阪拘置所に着いたのが六時半。まだ誰もきてない。正門の内側に四人ほど刑務官が立っているのがみえる。
 わたしは、デモ用につくったノボリ旗の一つ「死刑は人殺しです」を取り出して、正門にむかってつきだした。
 しばらく黙ってそうして立ってたんやけど、なんやいつもと様子がちがう。いつもやと死刑執行があったことを、なんとなく憚るような、隠すような、うしろめたいような、ひっそりした気配があった(と、勝手にそう思ってた)。
 ところがきのうは違った。正門横の出入り口から柔道着を着たこどもたち、その子どもたちといっしょの若いお母さんたち、仕事を終えた、ラフな服に着替えた刑務官らしい若者が、二、三人つれだって談笑しながら三々五々出てくる……。
 たぶん、これが大阪拘置所正門出入り口の、夕方の、いつもの風景なんやろ。なにごともないいつもどおりのなごやかさ。
 いままで一度だって、死刑があった日、業者の車の出入りは多少あっても、正門横からこんなふうに人が出てくるのを見たことがない……。
 一しゅん、「死刑は人殺しです」という旗に気付いたおかあさんが、気色ばんで「子どものまえでそんなことをしないでください」とつめよってきた。
 わたしは、「子どもにも、今日ここで起こったことをちゃんと説明してあげてください」というしかない。

 この日、ここ大阪拘置所で、万谷義幸さん(68歳)と山本峰照さん(68歳)が殺されたんや。(東京拘置所では平野勇さん(61歳)が。)
 死刑という人殺しは、その犯罪性を誰からも問われない。
 その責任性を誰からも問われない。
 公認公然の人殺し……。
 これほどの極めつけの犯罪があるやろか。
 人が二人も、今日、ここで、殺されたというのに、全く何事もなかったかのようなふだんどおりの夕方。
 そうなんや、この職場では死刑が日常化してしまったんや。
 年に一度くらいのときは、執行命令書が届いたら、所内の空気は緊張で一変したことやろ。刑務官も誰がボタンを押すことになるのかとキリキリしたにちがいない。それが鳩山の執行のベルトコンベヤー方式で、二ヶ月に一度の頻繁さ。保岡興治法相もそれを引き継いでいくことをはっきりしめした。

 拘置所は、いつ命令書がきてもあわてることのないように、死刑が日常業務として組み込まれ……人殺しに慣れて……非日常が日常化してしまった……のか。門の内側でニヤニヤしてる刑務官がいたんやった。
 三〇分くらいして、坂口くん、HさんKさんがくる。
 マイクを渡されて、わたしはつい問い詰める調子で言いつのってしまった。
 人殺しはねえ、自分が人殺しだっていう自覚をもってるんや。
 そして人殺しは悪いいうことも人殺しは知ってるんや。
 あんたらは今日人を殺したという自覚はないんか?
 死刑は人殺しの中でも一番悪質な人殺しやろ。
 誰でもいいから殺さなあかんいうて人殺しをするのは、法務大臣の方やろ。
 あんたらやろ……
 と。
 ああーああー。(ふう)