大菩薩峠2007年01月03日 10:29

石井鶴三「大菩薩峠」挿絵, 1928

 昨日は朝からずうーと寝るまで「大菩薩峠」を聞いてた。近所のOさんが目の見えないお父さんのために図書館からテープを借りてくるんやけど、それを3人でつぎつぎ聞いてるんや。文庫本でいうたら20冊くらいある大長編小説。これがほんまに面白いんや。聞き出したらやめられん。
 非人、乞食、めくら、かたわ、芸人(聞いたママ)……と実にさまざまな底辺に生きるひとびとが登場するんやけど、そのことばづかいの生き生きしてること。学問のないものほど自分のことばをもっていて、たとえば武士に向って吐く啖呵なんて、おもしろくておもしろくて。
 貧窮組なんてのが江戸の町に現れて、金持ちの家をまわって打ち壊しをやるんやけど、そのときの口上も実に単純明快。この小説には弱いもの可哀相なもの、ニヒルな人殺し、短気で単純なもの、ドロボー、卑しいもの、ちょっと足りないひと……と、ひとりとして正義のひとや高潔なひというのはでてけえへん。
 この小説は1913(大正2)年から1941(昭和16)年にかけて、いくつかの新聞に連載され続け、しかも未完に終わったものやから、毎日この小説を読んでるひとたちにとっては、どの事件を当てこすって政府を批判してるかわかったとおもうけど、中里介山はこの小説を書き続けることで国家を批判しつづけたんや。
 この「大菩薩峠」を朗読してるおじさんは、もと浪曲師か浪花節語りのひとかしらんけど、これははじめから目で読むより耳で聞かせるような文体なんやわきっと。文中に出てくる唄なんかもおじさんが節つけてうたってくれるし、これは読むより聞いて楽しむ小説や。全巻50何本あるらしいけど、まだやっと半分。これから先どんなになっていくんかしら、続きが楽しみ……(風)